日本の料理の基本
四方を海に囲まれ、四季おりおりが変化に富んだ日本は、食生活において旬をとても大切にするところが最も特徴的な習慣です。また、包丁の使い方や器に盛ったときの見た目の美しさを大切にする点なども、他国には見られない習慣でもあります。
日本料理の形式
伝統的な日本料理としては、本膳料理(ほんぜんりょうり)、会席料理(かいせきりょうり)、懐石料理(かいせきりょうり)、精進料理(しょうじんりょうり)、普茶料理(ふちゃりょうり)、卓袱料理(しっぽくりょうり)とあり、それぞれ起源が異なります。古くから日本人の生活に根ざしてきた仏教思想や茶道の「わびさび」の世界などに影響を受けながら、相互に影響し発達してきました。形式としては、本膳料理、会席料理と懐石料理の三つがあげられます。
本膳料理と会席料理(ほんぜんりょうり・かいせきりょうり)
本膳料理は、本膳(一の膳)、に続き二の膳、三の膳と次々に出される本格的な饗応料理です。昔の婚姻の席などで用いられた伝統的な形式です。現代では相当格式の高い儀礼的な場面以外では、まず用いられることはありません。
本膳料理があまりに格式ばったものなので、その略式という形で一般的に広まったのが「会席料理」です。本膳料理が一つ一つの膳がすべて台つきであるのに対し、会席料理は台のない折敷(おしき—角盆)と呼ばれる盆が使われることが大きな相違点です。江戸時代中期以降に料亭を中心に盛んになりました。
懐石料理(かいせきりょうり)
茶道を起源に本膳料理よりも古い歴史を持つものです。鎌倉時代の頃、日本人は1日2食の生活を送っておりました。特に、禅寺で厳しい修行を積む僧侶が、空腹をこらえるために温石(おんじゃく—温めた石)を腹にかかえてまぎらしたと言われております。この温石を「薬石(やくせき)」といい、懐石の語源です。
空腹をおさえるための軽い食事を懐石と言うようになり、千利休によって安土桃山時代に完成された茶道が盛んになるにつれて懐石料理も広まったようです。
以上のように、懐石料理は茶事に寄せて軽食をしつらえたもので、会席料理とは違いお酒が中心のものではありません。しかし、一汁三菜、二汁五菜と言った献立のたて方は共通しています。
懐石の基本的なコースは、一汁三菜に「はし洗い」「八寸(はっすん)」で構成されています。できたての汁でまずはご飯をどうぞ、という意味で折敷(おしき)にご飯・汁・向こうづけの三つをのせて出します。ご飯は炊きたてを少量盛り、汁はみそ仕立てが普通です。向こうづけは刺身や野菜のおひたし、あるいは「なます」などを用います。
お客様がひと口のご飯と汁を賞味したのちに、椀盛りの煮物か焼き物を出して勧めます。椀盛りが中心料理となりますので、季節のものを用い、大ぶりの椀にたっぷり盛ります。焼き物は別名を「御菜(おんさい)」とも呼ばれ、必ずしも焼き物でなくとも良く、揚げ物とか蒸し物でも構いません。
以上の一汁三菜で一応の食事が終わったあと、「はし洗い」と呼ばれる薄味のお吸い物を出します。その名のとおり、今まで使った箸をを洗い、口を清めるという意味で出されるものです。梅干し湯とか白湯(さゆ)に近いような味気のない汁に実をひと切れ浮かした程度の小吸い物です。八寸は、杉の白木地の八寸四方(およそ24cm四方)の盆にお酒の肴を2〜3種盛り合わせてだすところから、こう呼ばれています。はし洗いのあと、盃と八寸を出しお酒を勧めるという形になります。
お酒のやりとりが済んだところで、湯桶(ゆとう)と香のものを勧めて懐石料理は終わります。湯桶は正しくは「焦げ湯」と言われ、普通の日本料理ならお茶漬けのところを、茶の湯ではこのあと濃茶が出されるので、その味を引き立てるために、ご飯のお焦げに塩味をつけ、熱湯を注いだ香ばしい湯のことです。
現在の懐石料理は、これだけでは料理がさびしいことから、強肴(しいざかな)と呼ばれる、2〜3種の季節の和え物や塩辛などの料理を勧めることが多いようです。
精進料理(しょうじんりょうり)
中国から伝えられた仏教は、料理や日本人の食習慣にも大きな影響を与えております。寺院を中心にして発展した特殊な料理は、精進料理となって現代へと伝えられております。
肉や魚などのいわゆる「生もの」を一切使わずに、野菜・海藻・乾物や豆腐などを材料にしてバラエティ豊富な料理を作り上げております。大豆タンパクを上手に使っている点が大きな特色で、ゴマ・落花生(らっかせい)・クルミなどの植物性脂肪を利用しているところなどは、日本料理の高度な技術の表れと見ることができます。僧侶が昔から長寿で若さを保っているのは、精進料理のおかげとも言われ、健康食の元祖とも言えます。
大豆はそのままでは消化のよい食べ物ではありませんが、味噌・豆腐・湯葉・油揚げなどに加工することにより効率良く吸収します。これらは生活の知恵であり、日本料理の美しい風習のひとつでもあります。
普茶料理(ふちゃりょうり)
江戸時代初期に京都の宇治に黄檗(おうばく)山万福寺建立のために来日し、インゲン豆を伝えたことで有名な中国(明—みん)の僧侶・隠元(いんげん)禅師がもたらしたのが「普茶料理」です。
精進料理の一種でもありますので、当然生ものは使いません。中国料理のように油を多用するのが特徴です。また、大皿盛りにし、取り分けて食べる点も同じです。別名を「寺卓袱(てらしっぽく)」とも呼ばれ、卓袱料理の一種でもあります。
卓袱料理(しっぽくりょうり)
鎖国時代においても唯一開放されていた長崎に伝わる料理です。幕府の直轄地だったために、江戸の調理人が長崎に下り、中国料理をうまく取り入れたものです。「卓袱(しっぽく)」は中国風の朱塗りの食卓のことですが、次第にその卓上で供される料理を卓袱、あるいは卓袱料理と呼ぶようになりました。
日本料理の作法
<箸の取り方> 袋に入っている割り箸を使う場合は、最初に袋から取り出しから箸置きにのせます。箸置きがない場合は袋を三角に結んで使います。箸を取るときは右手で上から取り、左手を下から添えます。右手を箸に沿ってずらして持ち直します。
<盃の受け方> お酌されたら軽く会釈し、盃を右手に持ち、左手を添えて受けます。そそぎ終わった盃は一旦膳に置き、ちょっと間をおいてから両手を添えて頂きます。
<ご飯、汁の食べ方> 汁物に限らず蓋付きの料理はすべて蓋を取るのが作法です。取った蓋は上向きにして膳の横に置きます。まずはひと口すすって中身も口に入れます。次にご飯という順番で交互に食べます。ご飯のおかわりはひと口残して両手で差し出します。
<刺身の食べ方> 刺身は取り皿に醤油を注いで、ワサビを溶き、一部につけて食べます。取り皿を左手に持って、口許まで近づけて食べます。「つま」も頂きます。
<焼き魚の食べ方> 焼き魚は表身から散らかさないように食べ、骨を皿の端にまとめてから下側を食べます。切り身の場合も皮はやはり皿の端にまとめます。
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